カテゴリ:04-先生が足りない(-_-;)!~補欠授業奮闘記
2022年 5月 31日 (火) 1年生造形遊び~いろいろ ならべて
「校長先生コウチョウセンセイ,授業の補欠,お願いできませんか?,1時間目は学年で何とかするので,そのあと,3時間目くらいまでなんですけど……」
(ムムッ,1年生か。お道具箱あるから図工で何とかなるかな,でも1コマだけじゃすまなそうだからな……ここはひとつ,よいチャンスだし……)
とばかりに,「造形遊び」(図工)にチャレンジすることにしました。幸い,市の造形教育研究会が研究用に開発した“カラー割りばし”セットが手元にあったので……。
ところで,「造形遊び」って何?というのがまず気になるところだと思います。この学習内容は学習指導要領にきちんと位置付けられているものです。(後述)
活動開始前に児童に話したのは,次の2つだけでした。
「“わりばし”だけど,“わりません”」
( “割ってみる”という創造的な活動もそれはそれで価値あることなのですが,ここではオトナの都合で封印)
「(お花や犬猫などの)“え”はかきません。でも,形をつくるのはOKです。こうして並べたり,クロスさせたりしていくと,どんな形ができ……,あっ,イケナイいけない,ネタバレになっちゃうから,あ・と・はぁ,みんなでやってみよう!」
(この「絵はかきません」が重要なポイントになります)
上のような前説を,わざとじらすようにしながらお話して……この“じらし”が大切。じらしてじらして「はやくつくりたい!!!!」気分がピークに達したあたりで「スタート!」宣言をすると,子供たち,大人の予想をはるかに超えた力を発揮します。
私が発した「クロス」という語を拾ったのか,クロスから井桁に発展するグループがあらわれました。こういう文化はどんどん伝播していきます。あっという間にあちこちにタワーの乱立が……。でも,よく見ていくと,色の選び方に何か彼らなりの意味があったり,クロスのさせ方にバリエーションが加わったりしていきます。さらには構造上の必要から,土台部分に補強をしたり,装飾目的?なのか,先端部分にたくさんの材料を差し込んだり……。
タワー組とは別のグループでは独自の文化圏を構築しています。長くつなげる,つなげながら蛇行させるなど。さらにクロスさせた形を連鎖させていく,それも色の組み合わせを工夫しながら……なんていうグループも。「これ,このまま玄関ホールに飾りたいくらいだねぇ……。写真だけは撮って,とっておきましょうねぇ」
「つくる」活動が一段落する(煮詰まる?)と,今度は子供たち,自分たちがつくったものをあれこれ眺め始めます。大人の言葉でいうところの「鑑賞」がどこからともなく,自然に始まるわけです。
自分たちの背の高さにも迫るようなタワーを上から覗き込んだ児童,「すごいよすごいよ!」と,私を呼びに来てくれました。ここでもたくさんシャッターを切りました。ここまでは予想してなかったなぁ……(コドモを侮ってはいけない)
床いっぱいにランダムに広がった“色の線分”と戯れることを楽しんでいる子供たちもいます。文字通り「体全体」(低学年の重要ワード)で色を感じ,色のシャワーを楽しんでいる様子。実際,カラー割りばしの塊を投げ上げて散らかる様子を楽しんだり,散らかった上でゴロゴロ転がったりしていました。
ひとしきり,活動が進んだあたりで自然発生的に“お片付け”が始まりました。……と思ったのはオトナの見識違い,でした。「新品のクレヨンみたいに色の順番ができたねぇ」(大人語だと=色相の順番に並べててすごい)と声を掛けたら,子供たち,「これはねぇ,お店屋さんなんだよ!きれいでしょ!」(うわっ……しまった)
子供たちの活動には常に,子供たちなりの“意味”があって,それは常に創造的な方向に向かっている。オトナの事情で解釈すると,時として大きな誤りであることを思い知らされてしまう……。そんな瞬間でした。
中休みも終わりに近づき,お片付けフェーズに入ります。今回は色分けだけを指示したのですが……。
この作業も注意深く見ていくと,自然発生的なグループごとに様々な工夫をしていることが分かります。 同じ色を拾い集める方式,色ごとにエリアを作っておいて束からその色を抜き出す方式……。子供たち,自分たちなりに工夫しながら作業を進めます。
この“お片付け”だけを単体で取り出すと,どうしたら効率よく片づけられるか,をテーマにした「プログラミング的思考」を働かせる授業なども成立するねぇ……なんていうことを,見学に駆けつけてくれた先生とお話ししていました。
普通のオトナから見ると“ちょっと見”は,ただ材料を与えて遊ばせているだけ,に見えてしまうのかもしれません。でも,これを学習,資質・能力の育成という視点で見ていくと,あちこちで様々なことが起こっていることが分かります。その,さまざまなことをどんな風に価値づけて,指導・評価していくか,というのがわれわれ指導者には求められているのだな……。そんなことを改めて確認することができた授業になりました。
●そもそも,「造形遊び」って何?------------------
以下,造形教育研究会のWebサイトより引用
解説『図画工作編』p.26 より
造形遊びをする
児童は,自ら身の回りの世界に進んで働きかけ,いろいろと手掛けながら,自分の思いを具体化するために必要な資質・能力を発揮している。
そこには心と体を一つにして全身的に関わりながら,多様な試みを繰り返し,成長していく姿がある。
遊びがもつ教育的な意義と能動的で創造的な性格に着目し,その特性を生かした造形活動が「造形遊びをする」の内容である。
学習活動としては,想像したことをかく,使うものをつくるなどの主題や内容をあらかじめ決めるものではなく,児童が材料や場所,空間などと出会い,それらに関わるなどして,自分で目的を見付けて発展させていくことになる。
「造形遊びをする」では,児童が,つくる過程そのものを楽しむ中で「つくり,つくりかえ,つくる」という,学びの過程を経験している。
こんな風に学習指導要領上の文言で語られてしまうと難しい感じになってしまいます。でも要点だけ簡単に言い換えると要するに,子供の「思いつき」とか「ひらめき」とか「試行(思考?)錯誤」などをちゃんと価値付けましょう,そのかけがえのない価値を大切にしましょう,ということです。
そういう,つかみどころのないモノやコトに価値を見出すのって,普通のオトナはちょっと躊躇してしまうと思います。
作品としてカタチに残っていれば安心できるし,そういう価値もあります。でも,カタチとしては見えない価値や,ちゃんと子供を見ていないと見えてこない,“発揮中”の資質・能力もたくさんあるはず……。そこに着目できるかどうかが,フツーのオトナではない,“指導者”としての資質・能力を問われる,最初の分岐点なのかもしれません。
●後日談~担任の先生からの報告
数週間後,担任の先生がこんな写真(↓)を見せてくれました。
「子供たち,クーピー取り出して,色で遊んでました。同じ色を集めてみたり,色の順番に並べてみたりして……。この前の授業で経験したこととか,こういう風につながるんですね……」
ホントにつながっていたかどうかはわからないけれど,割りばしとはまた違う形状のクーピーを束ねて光を通してのぞいてみたり,立てて並べてみたりしている様子を見て,やっぱり子供たちはすごいな……と思いました。〔共通事項〕にある「気付く」ことが連鎖しているようで。
あと,こういう場面をスルーせずに報告してくれた担任の先生の気付きとか感性みたいなものもステキだな……と,しみじみ思うのでした。
公開日:2022年05月31日 16:00:00
更新日:2024年05月14日 10:28:35