カテゴリ:05-素晴らしき日曜日
2023年11月21日(日) 素晴らしき日曜日~山梨県立美術館
ジイさん3人で,ミレーを観にいく~山梨県立美術館
11月も後半にはいった花の金曜日(古っ,最近は“華”を使うらしいけど,ある意味,華かも),定時退勤してササっと子供たちの夕飯の支度を整え,夜の甲州街道を西へと向かいました。他の2人は先に現地(甲州塩山は裂石温泉)の宿入りを果たしており,後を追いかける形に。
今回の試みはオーバー還暦のジイさん3人でミレーを鑑賞したらどうなるか,というもの,でした。
別々のバックグラウンドの,3人
この3人,それぞれ軸足を置いてきた分野は理科,音楽,美術(私)とバラバラの元中学校教員です。
音楽科の彼は「ミレーもいいんだけど,ここには好きな作品があって,時々会いに来るんだよね。“畳の記憶(A)”っていうんだけどさ」
ウーム,ステキな美術館活用の仕方だ。美術館冥利に尽きるってもんだ(この日はほかの美術館に貸し出し中で,会えなかったけど…)。
理科の方は……
「美術科の人はさあ,こういう作品みる時,どんな風にみるの?」
「ウーム,とりあえずキャプション(作品解説の札みたいなの)は先に見ないようにするかな…。変な先入観を持っちゃうといけないですからね」
な~んて会話を交わしながら,常設展示室へ。
この館ができた時は,観光地の美術館にありがちな,“客寄せ目的でとりあえず有名なミレー入れてみました”,的な受け止めが先立ってしまい,なんだかなぁ,まったくもう…などと思っていたのですが,全然違いました。ミレーだけじゃないし企画展も地元作家の所蔵作品も充実。建物(前川國男)だって,甲府の地にしっかり根付いたものになっていました。
しばし,バルビゾン派の世界に没入。
対話その1 音楽科×美術科
「へぇー,ダフクロ(=ダフニスとクロエ 音楽の人はなんでも短縮形にしたりさかさま言葉にしたりします(笑))なんかも描いてるわけね。これって音楽でいうロマン派なの?」
「時代はかぶってるけど,この人たち,そういう流れとはちょっと離れたとこで活動してたみたいね。バルビゾン派,みたいに“派”ができちゃうくらいだから」
「フーン……,じゃあ印象派は?」
「さっきのダフクロとかって,あれ? 誰だっけ?」
「ラヴェルね」
「たぶん時期的には牧神の午後(ドビュッシー)なんかと一緒だけど。美術の印象派は微妙にもうちょっと早い時期からじわじわ来てたのかもね」
なんてことを芸術教科同士で話していると理科の彼が…。
対話その2 理科×美術科
「しかしさあ,なんでこんなにビミョーな天気の絵ばかりなの?」
「そうですよねピーカン(晴天)の絵,あまりないですよね」
「雨雲,来てます!もうすぐ降るぞ!みたいなシーンが多い」
「なんか,劇的なシーンをねらったのかな」
「写真撮るときも快晴よりは雲,あった方が絵になるからね」
「農民のリアルって,こうなんだよ,みたいな感じのことを言いたいのかな」
「晴れの絵もあることはあるけど……」
「まあ,この頃はまだ絵具,チューブに入ってなかったみたいだから,暗い感じになっちゃう,って学校の授業では教わるけどね」
「部屋の中で思い出しながら描いてたわけか」
「そういうことになりますかね……」
「チューブ入りの絵具が屋外で描くことを可能にして,そのおかげで光そのものを感じ取る中で,新しい色の“混ぜ方”とかに気づいたみたいね」
「新しい混ぜ方?」
「新しい色つくるのに,絵具を混ぜるんじゃなくて,混ぜたい色を並べて“置いて”目の中で混ぜるみたいな?,絵具を混ぜると濁って暗い色になっちゃうし。並べればキラキラ感出せるし」
「印刷のドットとかと同じね」……
なんて,理科的な見方・考え方も加わって,対話は続くのでした。
それぞれの文脈で,みている
「作品はみる人それぞれが,それぞれの“文脈”の中でみているんです。だからみえ方,感じ方もそれぞれに違うんです」というようなことを,元教科調査官(図工)の奥村高明 氏がNHKのテレビ番組(ヒューマニエンス 40億年のたくらみ)でおっしゃっていました。なぁーるほど。こういうことなのね……。
子供たちが作品と向き合う時も,児童それぞれにそれぞれの経験や生活環境や,既習事項なんかがあるわけで…。それを無視して「この絵はこうなんです,誰がいつごろ描いて,こういうところが特徴だからよくみておくんですよ!!」とかいうのはどうなのかな……と奥村先生,ずっとおっしゃっていました。
世界が,変わってみえる?
子連れの美術館巡りのときとは違って,めいっぱい時間と体力を使い切ってミュージアムショップとレストランへ。
「いゃー,疲れたね。朝ごはん,あれだけ食べたのにね……」(確かに,白米のほかに「赤米」とかも用意されていたので,3人とも2~3杯おかわりしてた)
「いい感じでお腹減りましたね」
「ほぼ立ちっぱなしだし,結構,知らないうちにアタマ使ってたんだろうね」
なんてことを語りながら,「イタリア風ほうとう」を口に運びます。
美術鑑賞をするとしばし,脳内が活性化されるといいます。そのあとは,世界の見え方も違ってくるみたいで……。
外に出ると,西からの強風が入り込み,山際にはどす黒い雲が発達し始めています。
「お,怪しい雲だね」
「バル…,なんだっけ?」
「バルビゾンね」
「バルビゾン派の空模様だね」
「そうだね」
「えっ? まずい!,早く逃げなきゃ,カッパ,持ってきてないし……」
それぞれに,慌てて甲府盆地から脱出するのでした。
山梨県立美術館 | YAMANASHI PREFECTURAL MUSEUM of ART
公開日:2023年11月20日 14:00:00
更新日:2024年06月12日 05:51:20